嚢中の錐

【漢字】嚢中の錐
【読み】のうちゅうのきり
【意味】嚢中は袋の中。袋の中にきりを入れておくと袋を破って刃先が見えてくることから、優れた者は隠れていても自然に才能を現すものである。
【例文1】彼はコネも使わずに入社したのに先輩よりも出世が早かった。まさに嚢中の錐だ。
【例文2】運動神経が良い彼は中学からサッカーを始めたが、嚢中の錐ですぐレギュラーに選ばれた。
【例文3】はっきりした顔立ちは化粧映えする嚢中の錐だ。

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「嚢中の錐」の逸話は以外におもしろい

嚢中の嚢は袋のこと。「本当に才能がある人は内に秘めていてもたちまち外に現れるものだ」という意味です。布袋に錐を入れると、尖った先端から袋を突き破って出てきてしまいますね。そのことを指しています。これは中国の司馬遷が書いた「史記」の中の「平原君・虞卿列伝 第十六」に記されている言葉から出た慣用句です。司馬遷は正義を貫き、功名を立てた士民の伝記である列伝を七十篇書いています。平原君(へいげんくん)はその中のひとりで戦国時代の趙の宰相でした。食客を常に数千人抱えていた実力者で、戦国の四君の一人に名を連ねています。この言葉が出てきた場面は、趙の国は存続をかけ、楚の国と連合することを決めます。楚王と話し合いに行くことになったのが平原君です。彼はたくさんいる食客の中から文武に優れた者を二十人選んで連れていくことにし、十九人まで選びましたが最後の一人が思い浮かびません。その時、毛遂(もうすい)という者が立候補しました。平原君は毛遂に「先生は何年ここにいますか」と尋ねると「三年です」との答え。
平原君は「賢明な士が世の中にいるということは、例えば錐(きり)が袋の中にあるようなもので、錐の先が袋を突き破って現れ出るように、すぐにその才覚が見えるものでです。しかし、先生はここに三年もいらっしゃるが、私の側近はあなたを褒めたこともなく、聞いたことがない。これは、能力がないからだ」と。毛遂は「私は今日初めて袋の中に入れてくださいと頼んでいるのです。もし早くに袋の中に入れて下さっていれば、柄(え)まで突き出していたことでしょう。錐の先っぽが見えただけでは済まなかったでしょう」と答え、平原君は連れていきます。そして毛遂の働きで楚王は趙と同盟を結ぶのです。平原君は自分の人を見る目のなさに落胆し、毛遂を厚遇しました。という話です。「嚢中の錐」は逸話としては面白いですが、あまり使う場面のなさそうな言葉ですね。

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